セミナー 医療と社会

23日は、弘前大学医学部コミュニケーションセンターで行われた「セミナー医療と社会 第50回記念講演会」に出席。この会は、よりよい医療のために社会との関わりあいを考えながら勉強、発信をしていこうという趣旨で、弘前大学医学部名誉教授品川信良氏を世話役として、1992年より、活動を続けている。主な活動は、年3、4回の勉強会と年2回の会誌の発行。今回の記念講演会は、勉強会が50回目を迎えたことを記念するものだった。

この会の第二部記念講演に、CoSTEPの隈本さんが招かれ、「再びカルテ(診療録)は誰のものか」というタイトルで講演をした。隈本さんはNHKにいたときに、「カルテは誰のものか」という番組を作り、これを見たセミナー会員の医師から呼ばれ、今から11年前に講演している。それから10年。実は、カルテの開示は、今年4月に施行された個人情報保護法のおかげで一気に進み、原則カルテは個人情報として申し出れば必ず見せてもらえるものとなった。個人情報保護法は、負の側面ばかりが強調されて報道され、10年間一進一退していたカルテ開示の問題を一気に解決したことについては、ほとんど触れられなかったと思う。隈本さんのお話は、現場の医師の皆さんも面白そうに聞いていたので、もしかしたら現場の医師の皆さんも、2005年4月以降カルテの扱いが画期的に変ったことに、気づいていなかったのかもしれない。

第一部“医療と社会の「これまで」と「これから」”とのタイトルで、公開討論が行われたのだが、参加者は医師が中心で、医療関係者以外の一般の人がほとんど見受けられなかったのが残念であった。
講師の中では、弘前大学医学部5年の医学生が、「学生から見た青森県医師不足と医師臨床研修」というタイトルで、面白い発表をしていた。彼は弘前大学医学部生を、県内出身者、県外出身者に分け、それぞれ、卒業後県外に就職してしまった理由、青森に残った理由を調査。青森の医師不足を解消するにはどうしたらいいかを提案していた。彼の調査の結果から彼が導いたことは、「卒業生に地元に残ってもらうためには、地元を好きになってもらうことが大切だ。そのために、学部生のころから、地元の自然や、地元の人と親しめるような機会を多く作らなくてはいけない」というものだった。
彼の前に、弘前大学で行われている医学教育について発表した医師の「青森の医師不足には、子弟の教育の問題があげられる。これを解決するには、灘高や開成高校を買収してきて、医師の子弟が医学部に入れるような教育をすればいい」という意見とは対照的だった。弘前大学医学部の教育改革を熱心に進めているこの医師も、青森のために、自分たちが変らなきゃと思っている、それは間違っていないと思う。だけど、地元の教育を、自分たちが学校に関わっていってよくするのではなく、都会から進学校を持ってきて、自分たちの子弟だけがそこに入っていい教育を受ければという発想は、問題を解決しないような気がした。青森にない、都会の教育を受けなくちゃだめである限り、その教育した子弟は、弘前大学医学部に入っても、やっぱり青森を出て行ってしまうだろう。
むかし、「変らなきゃも変らなきゃ」というコピーがあったように思う。変らなくちゃと言うときに、それまでの価値観のままでは変わりきれないということを言っていたのかも知れない。より地元に関わろうといった医学部の学生に希望を見た。