メルプロジェクト・シンポジウム2006

メルプロジェクトとは、配布資料によると「日本のメディアの生態系をより多様性のあるものに組みかえ、その中のあちこちに学習やコミュニケーションのコミュニティを生み出していくことをめざして、2001年1月にスタートした、ゆるやかなネットワーク型のギルド集団」である。今年は5年間のプロジェクトの最後の年。大学という枠を越えて日本全国のみならず韓国、台湾からも集まった多種多様なタレントを持つ80名あまりのメンバーが、700名以上のサポーターに支えられて民間企業、NPO、図書館、美術館、博物館、科学館、中央/地方テレビ局、小中高等学校、地域コミュニティなど、社会の様々な分野を結び、約30のサブプロジェクトや関連プロジェクトを展開し、それらのうちいくつかはメルプロジェクト本体を離れて更に発展しているという、「すごい」活動である。

私はほぼ毎年、このプロジェクトのシンポジウムに参加しているのだが、このシンポジウムがまたすごい。会場には参加者一人一人が膨らませた色とりどりの風船がちらばり、サングラスとアフロヘアーの司会者(←れっきとした大学の先生である)が場を盛り上げ、みんなで踊ったり歌ったりもする。普通の学会だと思って訪れた人はまずカルチャーショックを受けるに違いない。

壁には「こんな専門家はいやだ」「こんなメディアリテラシーはいやだ」などと印刷されたカードに参加者がめいめい言葉やイラストで答えを書き込んだものがびっしりと貼ってあり、それを見るだけでも楽しい。発表の合間には、プロジェクトのメンバーたちが自分たちの成果物を駅弁売りのようなスタイルで参加者に売り回る『メディア・バザール』が繰り広げられる。研究発表もまるでステージ・ショーのように展開され、BGMが彩りを添える。参加者は発表の感想を文字の代わりに一筆書きの「絵」で伝える。

シンポジウムの様子は逐一デジタルカメラとビデオで記録され、それがすぐさま編集されて、またシンポジウムの中で「振り返り」として紹介される。「カンブリアン・システム」と呼ばれるソフトウェアにより、関連する記録画像同士がネットワークで結びつけられ、ビジュアル化され、まるで銀河系のように配置されてプロジェクターで投影される。

プロジェクトそのものだけではなく、その成果発表であるシンポジウムにまで、メディア表現のありとあらゆる可能性とメディア遊びの楽しさが盛り込まれている。裏には、周到に準備された場のデザインのロジックがある。

表面だけ見ると「ふざけているのか」と思う人もいるだろう。しかしメンバーは極めて真剣だ。真剣だからこそ、「遊び」に到達したのだ。

昨今の硬直したメディア状況を切り崩すには、並大抵のことをやっていたのではダメだ、制度と構造を根っこから揺さぶるような挑戦が必要だ、という、徹底した現状認識と切実な想いから生まれた、「必然的な」スタイルなのだと思う。

私はこの、とびきりユニークで熱いプロジェクトを、東京にいるときからずっと「見学」してきた。学ぶところも実に多かったが、なぜ自分にはこのようなことができないのだろう、と大変ふがいない、悔しい思いもしてきた。改めて、自分には何が出来るのだろうという大きな宿題を与えられた気がする。