人生を変えるワークショップ

先週の土曜日の演習は、実習科目によって二手にわかれました。


「場の創出と実演 (サイエンスカフェ企画運営実習)」の実習を選択している受講生は、同志社女子大学教授の上田信行さんによるワークショップデザイン演習?でした。


上田さんは、学習環境デザインの研究者でもあり、数々の実験的なワークショップを手がけてきた一流の実践家でもあります。元々はハーバード大学などでセサミストリートなどの教育メディアの研究をされていた方でもあります。
奈良県吉野にネオミュージアムという私設ミュージアムを持ちワークショップ研究実践をしていると同時に、京都の大川センターというワークショップ専門施設での活動も展開しておられます。


上田さんの研究やワークショップにおけるキーワードは、「プレイフル」です。上田さんも研究アドバイザーで関わっていらっしゃるChild Research Net(http://www.crn.or.jp/index.html)の説明によれば、「何かに熱中しているときの感覚、感情、思い、好奇心や探究心、周囲への思いやり、人とモノと関わる前向きな姿勢を「プレイフル・スピリット」と定義しました。」だそうです。


当日のワークショップの内容もまさにプレイフルな内容でした。


まずは、教室がプレイフルな空間になるように準備をしました。大きなテーブル(長机を連結)に敷かれた紙にカラフルな文字で授業メニューが書かれていたり(大津さん作)、お菓子と飲み物が飲めるバーができていたり(ダンボールと色紙で作成)、照明に工夫があったり、小さなライブ会場といった雰囲気になっていきました。こうなると、並んでいるビデオとコンピューターとプロジェクターも、どこかアーティスティックに見えてくるから不思議です。ちなみに、上田先生お気に入りの音楽も場作りに重要な役目を持っていたと思います。


石村さんによる簡単な紹介のあと、上田さんの授業がはじまりました。
はじめのお話で印象的だったのが、
「この後と今では、人が変わるので覚悟してください。」
という一言です。


ひとしきり話をしたあと、ビデオを見ました。香港で学会に参加したときに、仲間とフィリップ・スタルクがデザインしたバーとエレベーターを訪れたときのビデオと上田さんが普段行っている授業についてのビデオをみました。後者のほうは、Play and Creativityという授業紹介ムービーだったのですが、それ自体がひとつの作品といってもいいクオリティだったこともあり、いきなり引き込まれてしまいました。
学生さんの顔が輝いていました。


その後、大きなテーブルをみんなで取り囲んで、授業の内容についてお話を聞きました。
演習の大きなテーマは、
Object to think with.(モノによりそって考える、モノで表現する)です。


まず、上田さんが取り出したモノは、小さな星型のシール。
実は、このシールが、メディアになります。
上田さんの説明によると、
「メディアは、コミュニケーションを10倍楽しくするもの」。


小さな星型のシールを顔のどこかにつけて街を歩いたら、それだけで「あ、この人おもしろそう。話しかけてみようかな」とか、「この人には近づかないでおこう」とか周りの人にメッセージを送ることになりますよね。


ということで、お互いにシールを貼りあいました。この時点で、参加しているみんなが顔のどこかに星型シールを貼った状態です。うーん、プレイフル(笑)。


そして、最初のアクティビティであるLego Building Blocks(レゴ高積み競争)へ。


参加者が二手にわかれて、3分の間にレゴをどれだけ高くつめるか競争しました。
1回目は、いきなり「ヨーイドン」ではじめました。みんななりふりかまわず童心に返り、積み上げ競争に熱中です。さすが、世界のレゴ。モノのパワーを実感。


そして、2回目は、作戦タイムをとり、グループでどんな積み上げ方をするのか、どういう分担で積み上げるのかを考える時間をとった上で競争しました。この二回のアクティビティーだけで、モノをつかった学びの楽しさと奥深さ、人とのコラボレーションについて、多くのことを体感することができたと思います。


このレゴを使ったアクティビティーは、プランニングの重要性について体感してもらうことも目的でした。


それから、通常ワークショップ参加者に何かタスクを与えて競争をさせる場合、初めから知識やスキルを持っている人が有利になったり主導権を握ったりしてしまうので、それ以外の人が平等に関われないと言う大きな問題点があります。ところが、レゴの高積みというのは絶妙のタスクで、このタスクであれば誰でもほぼ平等、同じスタートラインから参加できるので、活動への「引込まれ度」が格段に違うのです。


実は、授業のメニューが、イタリア料理をモデルに、アンティパスト(前菜)からプリモ・ピアット(メイン)、セカンド・ピアット(第二のメイン)、ドルチェ(デザート)、エスプレッソ(食後のコーヒー)に分けられてテーブルに描かれていたのですが、レゴ高積み競争は、極上のアンティパストでした。


そして、プリモ・ピアット(メイン)は、PCをつかったアクティビティーでした。
上田さんは、アムステルダムの学会で1000人を相手にワークショップをしたときに、みんなにPCを一つずつ配ったそうです。PCといっても、パソコンのことではなく、日本ではモールともいわれる、パイプ・クリーナー(PC)のことです(笑)。


その場で出された課題は、そのPCを使って、自分が思い描くプレイフルなサイエンス・カフェを表現して、それを自分の身体の一部につけてください、というもの。それぞれが、思い思いに形を表現し、身につけ、それらを説明しあいます。ネックレースをつくるひと、耳につけるひと、メガネにつけるひと、腰にまくひと、みんなの遊び心が躍動していました。


そして、その「作品」をひとしきり発表したあと、Playful Science TVというスタジオが即席で設けられ、三上さんの司会のもと、2人1組になって、お互いの作品についてビデオにむかって話し合うという撮影を行いました。絶妙の掛け合いをみせるグループや、いままでほとんど見せていなかったキャラクターを発揮してくれた方、などみなさんのプレイフルネスが引き出されていたように感じました。


その後は、Playful Science Barにて、お茶とお菓子をとりながら休憩です。一方で、プロジェクターでは、その時点までのアクティビティー中にとった写真をスライドショーでみることができました。みんな、ええ顔してるなぁ。


次のメニューのセカンド・ピアットは、Playful Science Cafeをつくるときの考え方の提案やObject to think withの考え方、そして上田さんの行っている活動や研究、教育の中核となる考え方を説明していただきました。


それから、このワークショップの構造を、先ほどふれた「Italian Meal Model(イタリア料理モデル)」にそって解説し、ワークショップに対するメタレベルからの視点を共有しました。


上田さんのワークショップ・モデルにおいては、
「つくって」→「語って」→「ふりかえる」という繰り返しが重要だそうです。
自分の言葉で振りかえることで、学びの構造を再認識できる仕掛けだと思いました。


そして、ドルチェ(デザート)となるアクティビティは、Cut-upsでした。
Cut-upsは、雑誌のテキストやイメージを切り取って、並べかえることで、表現をするというアクティビティーです。このCut-upsは、アメリカの作家のウィリアム・バローズがはじめたということで有名だそうです。


課題は、「自分にとっての今日のワークショップ」をCut-upsで表現してください。
というもの。


皆さんは、雑誌を切り刻みながら、模造紙にテキストやイメージをはりつけていきます。
これも、お互いに発表しあいました。発表の仕方も、各グループそれぞれ趣向を凝らしたもので、例によって「今まで隠していたキャラクター」が爆発していた人もいました。


このタイミングで、他の実習に参加していた受講生が見学に訪れたのですが、この場面にいきなり遭遇したので、きっと相当びっくりしていたことでしょう。


Cut-upsの面白さは、自分の感情に近い言葉や絵を既存のテキストやイメージから借りてくることによって、自分でも思ってもみなかったような豊かな表現が生まれることです。


そして、今回のCut-upsでは、それぞれの作品自体が演習の振り返り(Reflections)になっていたこともポイントです。


最後は、エスプレッソ(take home message)。


その場で上田さん自らが編集した演習の様子をとったビデオをみながら、ふりかえりました。実は、演習のもう一つのテーマが、Documentation technology(記録技術)だったのですが、パソコンとデジタルカメラやビデオカメラを使って、その場で撮ったものをその場で編集し、振り返ることができてしまうのです。現在の編集ソフトの使いやすさを考えると、少しがんばれば誰でもできてしまうテクニックです。


午後1時から4時間以上にわたって行われた演習は、とってもプレイフルで充実した内容でした。それはもう、参加したみんなの笑顔が物語ってくれていました。それぞれが大きなお土産を持って帰ってくれたと思っています。
かく言う私も沢山のことを学ばせていただきました。


上田先生、みんな、ありがとう!!
と叫びたくなる、素晴らしい一日でした。(岡橋)