本屋でぼくの本を見た

「本屋でのぼくの本を見た」というタイトルの本があります。
帯には「どんな作家にもはじめての一冊がある。人気作家61名のデビュー物語」とあります。
渡辺淳一さんはじめ、私の好きな小池真理子さん、高橋源一郎さん、俵万智さん、赤川次郎さんと、小さな本屋さんにでもその本がないことはない、たくさんの本をお書きになっている作家さんが、デビュー前後の心情を綴っています。

私は、作家ではなく編集者として、初めて自分の作った本が書店に並んだときのことをよく覚えています。
会社から近い大きな書店さんをまわって、自分の作った本を棚から出して、表紙が見えるように平台に置き換えてきました。祈るような気持ちでデビューさせた新人さんが重版になったとき、書いた作家さんと次の作品についてあれこれ相談するとき、編集者の最も幸せな瞬間です。

かれこれ100冊以上の本の出版に関わってきましたが、この春、これまでで一番うれしい本が出ました。
「シンカのかたち 進化で読み解くふしぎな生き物」です。
 

シンカのかたち 進化で読み解くふしぎな生き物

シンカのかたち 進化で読み解くふしぎな生き物


この本は、CoSTEP1期生が中心になり2期生も加わり、総勢14名の新人サイエンスライターたちが、Web上のツールを駆使して、企画し、書き、推敲してできあがりました。企画から完成まで丸1年かかりました。みなさん、CoSTEPの演習や実習の中で、取材、執筆、グループでの推敲作業などを経験していますが、実際に出版社の編集者とやり取りして、1冊の本を完成させたのは、新鮮でスリリングでやりがいある体験だったろうと思います。


リーダーとして最後までみんなをまとめ、この春科学コミュニケーションの研究者として就職した川本思心(ししん)さんは、「この本が出なかったら、爆弾を持ってCoSTEP本部に突っ込む」と真顔でつぶやいていました。本を1冊書き上げた経験をお持ちの方は、深く同意してくださると思いますが、書店に並ぶ本を作るのは、非常に根気がいる仕事です。


みなさん、書店で本を手にとって見てください。
そして、まず奥付をみてください。
そこに、この本に関わった人の名前がずらーっと並んでいます。


イラストレーターの宮本拓海さんは、きっとこんなにたくさんの変な生き物のイラストを描くはめになるとは、思いもしなかったのではないでしょうか。細かいとこまでうるさい、生物学者や科学技術コミュニケーターたちの注文に応え、最後まで緻密なイラストを仕上げていただき、ありがとうございました。


同じく、版元技術評論社の神山さん、「著者が多ければ多いほど、編集は大変だよ」と最初に脅しをかけましたが、最後の印税支払いの手続きまで、煩雑な作業をいやな顔せずこなしていただき、ありがとうございます。


監修の先生方、快く資料をお貸しいただいた研究者の方々、駆け出しのサイエンスライターを応援いただいた心意気に感謝申し上げます。


なにより、なにより、この奥付に並んだ14人のライターさんたちの、多彩な顔ぶれにご注目ください。短いプロフィールを読んでいただくだけで、この人たちがどうやって1冊の本を作りあげたのか、不思議な気持ちがしませんか?


これが、CoSTEP受講生たちの力です。


今、私は、受講生のみなさんの立派な本を手に、誇らしい気持ちでいっぱいです。
本屋でCoSTEPの本を見ました。