北米大陸

夜が明けた。飛行機はロッキー山脈の上を飛んでいる。温暖な西海岸側から内陸に入るにつれて、下界は乾いた茶色から白銀へ色を変えている。
広大なロッキーを越えるとき、私はいつも、北米大陸のスケールを実感する。
いまこの大陸のどこかにいる石村さん、HELLO、元気?
天文学者たちから温かくもてなされたハワイを後に、いよいよ一人旅が始まった。
約7年前に子供を産んで以来、こんなに長く1人で行動することはなかった。
これから約1週間、1人でいることに精神が高ぶっている。気持ちよく送り出してくれた家族に、感謝している。
私の生涯の愛読書は、ローラ・インガルス・ワイルダーの書いた「大きな森の小さな家」シリーズだ。大学を卒業して就職した出版社の社内報に、新入社員の挨拶を書いたときもそう書いた。10年たったが、それは変っていない。6歳のときにこの本を読んでから。アメリカはずっと憧れの国だった。ローラたちが西部へと人生を開拓していったように、いつか自分も、アメリカで人生を開拓するような気がしていた。
初めておとずれた外国は、もちろんアメリカだった。
ローラは南北戦争が終わったころ、開拓者の一家に生まれた。一家はウィスコンシンの森を出て、草原を目指した。あの丘の向こうに何があるのか知りたくて登ってみる。でもあるのはまた同じような丘。それでも、あの丘の向こうが見たくて、登ってみる。ローラはそんなことを言っていた。

飛行機が、雪煙を上げながら草原の真ん中に滑り込んだ。あの丘の向こうが見たくて、ローラから百数十年たった今も、私はアメリカを訪れる。