なかよしコミュニケーションで終わらないために

CoSTEPの授業は楽しい。
活動も楽しい。
そう言ってくれる受講生が多い。

CoSTEPを受講した人たちは、ここで仲間を見つけ、新しいアイデアがわき、きっかけをもらい、そして、楽しい科学コミュニケーションを目指そうとする人が多いだろう。
そう企画・設計しているのだから、そうなってくれたとしたら、教員としてとてもうれしい。

しかし、我々は、「CoSTEPは科学コミュニケーションの問題には目を向けず、科学って素敵だね、楽しいね、面白いねっていう活動をしている」とのご批判があるのを知っている。受講生の中からさえ、そういうご批判がある。

そして、現段階で我々は、その批判には当たらないと言い切れないことも自覚している。でも、第一期の修了生の中には、ネット社会のセキュリティーや、食品の安全など、また、国がリーダーシップを取れていないことをきちんと批判していこうと活動を続けている人もいる。そういういわゆる「楽しくない」コミュニケーションは、なかなか注目されないし、目立たない。

だから私は、第2期の受講生の人に、声を大にして言いたい。「内輪で盛り上がって、科学(科学者)万歳コミュニケーションだけをやっている」という批判を払拭してほしい。科学の様々な問題を眉間にしわを寄せて考えたり、あえて不愉快なコミュニケーションを企画したり、自分を避ける相手、自分を批判する相手、自分に関心を持ってくれない不特定多数の人たちに、突っ込んでいったりしてほしい。

今日の演習で最後に伝えたかったのは、そいういうことだった。

お互いに気心が知れたものだけ、みんなが関心を持っている話題、協力的な雰囲気、似たようなバックグラウンドを持った人たちが集る教室でやるコミュニケーションは、うまくいって当たり前なのだ。有意義な感じがするのが普通なのだ。

しかし、教室での成功体験、楽しかった体験なしで、見知らぬ、非協力的で、関心も薄い人たちを巻き込むようなコミュニケーションを作り出していくことはできないだろう。だからCoSTEPにいる間は、楽しくて、充実したコミュニケーションを体験し、納得し、成功体験を積み重ねてほしい。外からの批判を気にすることもない。楽しかったからと言って、自己批判する必要もない。授業においては、短時間でそういう経験がたくさんできるように、みなさんにも協力していただきたい。

ただし、一年間のカリキュラムを終えて卒業したら、話は別だ。それぞれの持ち場へ、できるだけ、遠くまで広がって、社会のために自分が何ができるのか、考えてほしい。

そんな大げさなことを考えて受講したのではないという人もいるだろう。しかし、我々は本年度も、本科生30人、選科生30人の教育のために1億円弱のお金をいただいている。あなたを見込んで、一人当たり数百万円の受講料を国が負担しているのだ。そのことは、やはり、忘れないでほしい。

CoSTEPも公式サイトをリニューアルして、修了生の活躍を掲載していくコーナーができた。しかし、私は、修了生の人が、失敗した話、うまくいかなかった話をこそ、楽しみに待っている。そうやって、自らの課題に挑んで、うまくいかなかったときにこそ、ぜひ、報告に来てほしい。苦労を分かち合って、次の手を一緒に考えよう。
(難波)